から崩れる隙なのだ。開けっ放しの人間には、仲々忍術は応用出来ない」
「ははあ然うか、これは驚いた。頓智のコツとそっくり[#「そっくり」に傍点]だ。……頓智とは弱点を突くことさ。用心堅固の奴に限って沢山弱点を持っている。その弱点をギシと握り、チョイチョイ周囲《まわり》をつっ[#「つっ」に傍点]突くのさ。……まとも[#「まとも」に傍点]に突くと皮肉になる。皮肉になると叱られる。そこで軽くつっ[#「つっ」に傍点]突くのさ。……そうだ或る時こんなことがあった。『余の顔は猿に似ているそうだ。どうだ、ほんとかな、似ているかな?』こんなことを殿下が仰せられた。列座の面々一言も無い。こいつァ何うにも答えられない筈さ。事実猿には似ているのだが、相手が殿下だ、そうは云えない。で、いつ迄も無言の行よ。そこで俺が云ったものさ。『いえいえ然うではございません。つまり猿の顔なるものが、殿下に似ているのでございます』とな。すると大将大喜びだ。早速拝領と来たものさ。アッハハハこの呼吸だよ」
「いや面白い、そうなくてはならない」五右衛門は感心したらしい。
釜の湯がシンシンと音を立てた。
早咲の桜がサラサラと散った。
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