そいつらの顔を睨め乍ら、殿下の耳を嗅いだやつさ。すると早速賄賂が来た。告口されたと思ったらしい。尤もそいつ[#「そいつ」に傍点]が付目なのだが」
「アッハハハ成程な。お前らしい遣口だ。人生《ひとのよ》の機微も窺われる。……それはそうとオイ新左、お前この釜に見覚えはないか?」
「どれ」
 と云って見遣ったが「アッこいつア楢柴だ!」
「殿下ご秘蔵の楢柴よ」
「どうしてお前持ってるのだ?」新左衛門は仰天した。
「どうするものか、借りて来たのさ。無断拝借というやつよ」
「それじゃお前、泥棒じゃアないか」
「なぜ悪い、可いじゃないか。どうせ無駄に遊んでいる釜だ。二、三日借りて立ててから、こっそり返えしたら、わかりっこはない」
「そんな勝手が出来るものかな」新左衛門は感心した。「つまり何んだ、忍術だな。……忍術って本当に可いものだな」
「そうさ、お前の頓智ぐらいな」
「なんだ、莫迦な、面白くもねえ」厭な顔をしたものである。
「おい五右衛門」と新左衛門は云った。「秘伝は何んだ、忍術の秘伝は? 思うに隙を狙うのだろう?」
「隙を狙うには相違無いさ。が、尋常の隙では無い。……用心から洩れる隙なのだ。固め
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