たというか? ふん」
 と秀吉は小首をかしげた。
「その者直々俺が調べる」
 秀吉は正家にこう云った。
 そこで五右衛門は破格を以て秀吉の御前へ引き出された。
「俺の体に隙があったと、こうお前は云うのだな?」
「御意の通りにございます」五右衛門は少しも臆せなかった。
「で、どんな時、隙があった?」
「ご退座という其の瞬間、お体が斜になられました時」
「うむ、その時隙が見えたか?」
「はい、左様でございます」
 秀吉は鳥渡考えた。
「よく申した、味のある言葉だ。斜? 斜? 側面だな?……いや全く世の中には側面ばかり狙う奴がある。とりわけ徳川内府などはな。……どうだ五右衛門、俺に仕えぬか」
「これは何うも恐れ入ったことで」
「得手は何んだ? お前の得手は?」
「はい、些少《いささか》、伊賀流の忍術《しのび》を……」
「ほほう忍術か、これは面白い。細作として使ってやろう。……これ、此の者に屋敷を取らせろ」
 こんな塩梅に五右衛門は、ズルズルと秀吉の家来になった。

        ×

「居るかえ」
 と云い乍ら這入って来たのは、お伽衆の曽呂利新左衛門であった。
「やあ新左、まず這入れ」
 
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