第にいて、日夜淫酒に耽っていた。
「天下はどうせ秀頼のものだ。俺は廃嫡されるだろう。どうも浮世が面白くない。面白くない浮世なら、面白くしたら可いじゃ無いか」
 で、淫酒に耽るのであった。
 快楽主義者の五右衛門に執っては、秀次は格好な主君であった。
 素敵に愉快な日がつづいた。
 或る時常陸がこんなことを云った。
「五右衛門、一働き働いてくれ」
「よかろう、何んでも云い付けるがいい」
「伏見の城へ忍んでくれ」
「…………」
 さすがに五右衛門も黙って了った。
 よく其の意味がわかったのであった。「ははあ常陸奴この俺を、刺客にしようというのだな」
 ややありて五右衛門は「諾《うん》」と云った。「俺はいつぞや秀吉の襟へ、小柄を縫い付けたことがある。つまり、なんだ、その小柄を、今度は深目に刺すばかりだ」

        ×

 五右衛門が秀次に仕えたと聞くと、ひどく秀吉は恐怖した。
 そこで諸国へ令を出し、名誉の忍術家を召し寄せた。
 その中から十人を選抜し、「忍術《しのび》十人衆」と命名し、大奥の警護に宛てることにした。
 一条弥平、一色鬼童、これは琢磨流の忍術家であった。
 茣座小次郎
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