]した。
「恐ろしい奴だ」と思ったからであった。
自然それが五右衛門にも解り、五右衛門も秀吉を疎むようになった。
遂々《とうとう》或る日瓢然と、伏見の城を立ち去った。
剽盗《せっとう》に成ったのは夫れからである。
五右衛門が伏見から去ったのを、誰にもまして失望したのは、親友の曽呂利新左衛門であった。
彼は怏々として楽しまなかった。
「面白くないな、全く面白くない。殿下も腹が小さ過ぎる。五右衛門ぐらいを使え無いとは。……俺もお暇しようかしら。考えて見れば俺なんてものは、体のいい貴顕の※[#「封/帛」、第4水準2−8−92]間というものだ。男子生れて※[#「封/帛」、第4水準2−8−92]間となる! どうも威張れた義理じゃ無い」
こういう考えが浮かんで以来《から》、軽妙な頓智が出なくなった。
「俺は決して幇間では無い。俺はこれでも諷刺家なのだ。世の所謂る成上者が、金力と権力を真向にかざし、我儘三昧をやらかすのを、俺は俺の舌の先で、嘲弄し揶揄するのだ。例えば或る時こんなことがあった。そうだ聚楽第の落成した時だ、饗応の砌、忌言葉として、火という言葉を云わぬよう、殿下からの命令だった
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