ぬきて、爰に一村かしこひに一むすび、五人三人づつ渡しあひて、しのぎを削り、うち物よりも火焔を出す。女童是を見て、四方へばつと逃まどふ。あれ/\殿下御覧ぜよ。なによりも面白き慰にて候はぬかと云ひければ、殿下のたまひけるは、さのみは人を苦めて、罪造りて何かせん、はや/\やめ候へと宣へば、さあらば喧嘩をやむべしとて、西の方を二三度まねきければ、見物の人々も、喧嘩をいたす輩も、八方へむら/\とぞ逃たりけり。かくて時刻も移りて、祇園会の山鉾、はやしたてゝ渡しけり。五右衛門こゝは、所間遠にて、おもしろからず、よき所にて見せ参らせ候はんとて、四条の町の華麗なる家にともなひけり。さて何処よりとりて来たりけん。杉重角折、すはまの台など、あまた殿下にすゝめけり。かくて山鉾もこと/″\く通り過ければ、今は見るべきものゝ無ければ、いざ/″\故郷へ帰らんとて、また鳶の羽にうちのせて、其日の六つはじめに、伏見にぞ帰りける。帰館して後にぞ、殿下は夢のさめたる心地はしつれとぞ、宣ひけると語り給へば、五右衛門首尾を施ける」
四
だが此の事あって以来、秀吉は五右衛門をうとうとしく[#「うとうとしく」に傍点
前へ
次へ
全24ページ中12ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング