五右衛門はポンポンと座を払った。
二人は非常な親友なのであった。
その対照が面白い。
新左衛門は好男子、水の垂れるような美男であった。
それに反して五右衛門は、忍術家だけに矮身で、猪首の皺だらけの醜男であった。
新左衛門は町人出、これに反して五右衛門は、北面の武士の後胤であった。
一人は陽気なお伽衆、然るに、一方は陰険な細作係というのであった。
が、二人には一致点もあった。
「世の中が莫迦に見えて仕方が無い」――と云うのが即ち夫れであった。
そうして夫れが二人の者を、ひどく仲宜くさせたのであった。
「五右衛門」
と新左はニヤニヤしながら「俺は滅法儲けたぜ」
「お前のことだ、儲けもしようさ」五右衛門は茶釜を引き寄せた。
「まあ聞くがいい、耳を嗅いだのさ」
「え、なんだって、耳を嗅いだ? なぜそんなことをしたんだい?」五右衛門も是れには驚いたらしい。
「手段《て》だよ、手段《て》だよ、金儲けのな」
三
「で、誰の耳を嗅いだんだ[#「嗅いだんだ」は底本では「嗅いたんだ」]?」
「殿下の耳を、云う迄もねえ」
「へえ、それで金儲けか?」
「加藤、黒田、浅野、生駒、そいつらの顔を睨め乍ら、殿下の耳を嗅いだやつさ。すると早速賄賂が来た。告口されたと思ったらしい。尤もそいつ[#「そいつ」に傍点]が付目なのだが」
「アッハハハ成程な。お前らしい遣口だ。人生《ひとのよ》の機微も窺われる。……それはそうとオイ新左、お前この釜に見覚えはないか?」
「どれ」
と云って見遣ったが「アッこいつア楢柴だ!」
「殿下ご秘蔵の楢柴よ」
「どうしてお前持ってるのだ?」新左衛門は仰天した。
「どうするものか、借りて来たのさ。無断拝借というやつよ」
「それじゃお前、泥棒じゃアないか」
「なぜ悪い、可いじゃないか。どうせ無駄に遊んでいる釜だ。二、三日借りて立ててから、こっそり返えしたら、わかりっこはない」
「そんな勝手が出来るものかな」新左衛門は感心した。「つまり何んだ、忍術だな。……忍術って本当に可いものだな」
「そうさ、お前の頓智ぐらいな」
「なんだ、莫迦な、面白くもねえ」厭な顔をしたものである。
「おい五右衛門」と新左衛門は云った。「秘伝は何んだ、忍術の秘伝は? 思うに隙を狙うのだろう?」
「隙を狙うには相違無いさ。が、尋常の隙では無い。……用心から洩れる隙なのだ。固め
前へ
次へ
全12ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング