大声で云われました。
 捕吏らしい様子の者が十二、三人と、早立ちの旅人らしい者が五、六人がところ、土間にも門口《かどぐち》にも門《かど》の外にも、ごちゃごちゃ入り混んでおりまして、茶屋は混雑しておりました。
 駕籠は門口へ据えられたのでした。
 往来を警戒するかのように、捕吏たちの多くはその門口に、かたまって立っていたのでしたが、その真ん中へ駕籠を据えられ、吉之助様や俊斎様に、そんなような態度に出られましたので、疑惑を起こさなかったばかりでなく、むしろ飽気《あっけ》にとられたような様子で、駕籠から離れてしまいました。
 そこで私たち三人の者は、駕籠をその場へ舁《か》き据えたまま、土間の中へはいって行き、上がり框《がまち》へ腰をかけました。
 と、この茶屋の娘らしい女が、茶をついだ湯呑みを盆にのせて、人混みの中を分けるようにして、ご上人様の駕籠の方へ歩いて行きかけました。
 その時声が聞こえましたっけ。――
「ちょいと娘さん妾《わたし》へおかしよ。……妾の方が近間だよ。……代わってお給仕してあげようじゃアないか」
 綺麗な張りのある声でした。
 門口に近い柱に倚《よ》って、甲斐絹《かいき
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