」、第3水準1−84−80]ぎとられた片腕が、わたしの胸へあたったからです。
へたばったままで顔を上げて、奥の部屋を見た時のわたしの恐怖は! おお何んと云ったらいいでしょうか! ともかくもわたしの一生を通じて、忘れられないものでございました。
一匹の巨大な白犬が、人間の男を抱きすくめ、その喉笛《のどぶえ》を食い裂いているのです。
犬神の娘のお綱という女が、巫女《みこ》の着る白い行衣を着、裾まで曳きそうな長い髪を、顔や肩へふり乱し、両腕を※[#「てへん+宛」、第3水準1−84−80]がれて呼吸《いき》絶えているらしい藤兵衛という男を両手で抱きすくめ――後で聞いたことではございますが、この藤兵衛という目明しは、梅田源次郎様その他の志士を、あらゆる姦策をもって捕えました結果、自分も志士方に惨殺された、有名な京都の目明し文吉、この男の兄弟分でありましたそうで、そうしてお綱の情夫だったそうで、そうしてご上人様を捕えようとして、京都から浪速、九州と、つけ廻して来た男だったそうでございます。――その藤兵衛という男を抱きすくめ、その藤兵衛という男の咽喉《のど》を食い裂いた、血だらけの口、血だらけ
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