、わたしたちの眼に見えました。
 そうしてそれらの人々の背後に、丘のような蘇鉄《そてつ》の植え込みがあり、その蔭へわたしたちは走り込み、彼らの様子をうかがいましたが、屋内の様子に気をとられていたからか、彼らはわたしたちに気づきませんでした。

        九

 彼らは捕吏の一部でした。さっきかた斗丈庵へ押しよせて来た、その捕吏の一部でした。そうしてその中に例の男――竹田街道の立場茶屋や、この屋敷の門前で逢い、斗丈庵では望東尼様の頭巾を、かなぐりすてましたところの例の男がいて、それが屋内に呼びかけていました。
「お綱、出て来い! ヤイ下りて来い!」
 でも屋内からは返辞がなく、森閑としておりました。
「来ないか、来なければ俺が行くぞ!」
 またその男は叫びました。
 しかし依然として屋内からは、何んの返辞もないらしく、森閑としておりました。
「行きな、親分、とり逃がしたら事だ」
「姐ごは心変わりしたんですぜ。……今ではあべこべに敵方で。……ですから親分踏み込んで行って……」
 集まっている捕吏の口々から、そういう声々が叫ばれました。
「うむ、そいつは知ってるが、ここは迂濶《うかつ》
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