丈様ばかりを庵へ残し、わたしたち四人が五反麻を立って、犬神の屋敷へ向かったのは、それから間もなくのことであり、後夜《ごや》をすこしく過ごした頃には、屋敷の前に立っていました。
「まず拙者が」と云いながら、北条右門様が土塀を乗り越し、内側から潜《くぐ》り戸をあけましたので、わたしたちは構内へ入り込みました。
「静かに! ……いる、誰かいる。……それも大勢いるらしい」
 植え込みの間を分けながら、千木の立っている建物の方へ、わたしたちが数間歩きました時、囁くような声で国臣様は云われ、にわかに足を止められました。
「北条氏、北条氏、貴殿には望東尼様を警護されて、ゆるゆる後からおいでくだされ。……重助おいで、わしと先駆《せんく》じゃ」
 そこでわたしは国臣様とご一緒に、先へ進んで行きました。手入れをしないからでありましょう、植え込みは枝葉を林のように繁らせ、雑草は胸まで届くほどにも延び、それが夜露を持ちまして、手や足に触れる気味の悪さは、何んともいいようがありませんでした。
「重助、あぶない、伏せ、地へ伏せ!」
 国臣様が小さいお声で、でも叱※[#「口+它」、第3水準1−14−88]なさるかの
前へ 次へ
全41ページ中31ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング