でも船夫たちはますます図太く、
「へえ、斬るとおっしゃるので。ところがあっしたち斬られませんねえ。水の上ならこっちが得手で、刀を抜いてお斬りになるのが早いか、あっしたちが水へ飛び込むのが早いか、物は験《ためし》だ、やってごらんなせえ」
「水へ飛び込んだらいよいよ得手だ、船なんかすぐにもひっくりかえして見せる」
と、こう口々に云うのでした。
「よか、まアまアそう申すな」
吉之助様は穏《おだや》かに云われて、小粒を三つ四つ懐中《ふところ》から出され、
「これで機嫌を直してくれ、約束の他の当座の酒手じゃ」と、なだめるように申したことです。
五
ところがどうでしょうそうあつかっても、船夫たちは云うことを聞こうとはしないで、
「酒手が欲しくて云っているのではごわせん、深夜《よふけ》に坊さんを乗せるってことが……」
「船に坊主は禁物でしてね」
「それに深夜《よふけ》の坊主と来ては……」
「坊主は縁起が悪いんで」
と、どうしたものかだんだん声高に、坊主坊主とそう叫んで、岸の上の方を見上げるのでした。
さすがの吉之助様もこの様子を見られて、これはいけないと感じられたのでし
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