ょっと[#「ちょっと」に傍点]したことに、くたくたになってしまうものさ。たとえばその人の足の踵《かかと》が、桜貝のような色をしていたというので、旦那をすててその人と逃げたり、その人が笑うと糸切り歯の端《はし》が、真珠のように艶《つや》めくというので、許婚《いいなずけ》をすててその人と添ったり、おおよそ女ってそんなものだよ。……あの人のお手、綺麗だねえ」
「…………」
「八百八狸も名物だけれど、でも四国にはもっと凄いものが、名物となっている筈だよ。犬神《いぬがみ》だアね、犬神だアね」
「…………」
「でも犬神もこんなご時勢には、ご祈祷《きとう》ばかりしていたんでは食えないのさ……。犬の字通り隠密《いぬ》にだってなるのさ。……取っ付きとさえ云われている犬神、こいつが隠密《いぬ》になったひにゃア、どんな獲物だって逃がしっこはないよ」
四
わたしとその女とは突っ立ったままで、話しているのではありませんでした。わたしが河岸《かし》の方へ歩いて行くので、その女が従《つ》いて来て、そう小声で話しかけるのでした。
「でもねえ」とその女は云いつづけました。「そういう女が裏返ると、か
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