》り[#「宣《なの》り」は底本では「宜《なの》り」]通れるよう、むごたらしく[#「むごたらしく」に傍点]きっと殺してやる! ……さあこの構え、破らば破れッ」
 極悪非道の吸血鬼、変質性の惨虐の本性、今ぞ現わして陣十郎は、甲源一刀流上段の構え、左足を踏み出し太刀を振り冠り、左手の拳、柄頭の下から、憎々しく主水を横平に睨み、鍔際を握った右の手で、からかう[#「からかう」に傍点]ように太刀を揺すぶった。
 勝れた業の恐ろしさよ! 振り冠られた刀身は、凍った電光のそれのように、中段に太刀を付けた主水の全身を、威嚇し圧して動かさなかった。
 八方へ心を配ったあげく、博徒一人をともかく切った。人一人切った心身の疲労《つかれ》、尋常一様のものではない。のみならず敵を追い二町の耕地を、刀を振り振り走って来た。その疲労とて一通りではない。主水は疲労に疲労ていた。そのあげくに向けられた悪剣!
 眩む眼! 勢《はず》む呼吸《いき》!


 博徒|〆松《しめまつ》の横腹を、懐剣で一突き突いて倒し、散った博徒の間を突破し、陣十郎の後を追う、兄主水に追い付こうと、澄江は疲労に疲労た足で、耕地を一散に走ったが、懲
前へ 次へ
全343ページ中83ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング