主水の、眼前を閃めく白刃の光!
「音!」
鏘然!
陣十郎と、はじめて主水は一合した。
が、次の瞬間には、互いに飛び違い構えたが、敵《かな》わぬと知ったか復《また》も卑怯、陣十郎は走り出した。
「待て、汝、卑怯未練! 逃げようとて逃がそうや!」
追っかけたが妹が気にかかり。
「澄江ヨ――ッ」と呼ばわり振り返った。
3
「お兄イ様ア――ッ」と答える澄江の声が聞こえ、つづいてワ――ッという悲鳴が聞こえ、その澄江に突かれたのであろう、一人の博徒が横腹を抑え、街道から耕地へ転がり落ちる姿と、散った博徒の間を突破し、こっちへ走って来る澄江の姿とが見えた。
「妹、見事! ……兄はここじゃ!」
呼ばわった主水の背後から、
「勝負! 主水! 参るゾッ」という、陣十郎の声が聞こえた。
「参れッ」と叫んで振り返り、途端に日の光を叩き割り、切り込んで来た陣十郎の刀を、鍔際で受けて頭上に捧げ、皮を切らせて敵の肉を切る、入身捨身仏魔《いりみしゃしんぶつま》の剱! それで切り込んだ主水の刀を、何と無雑作に陣十郎は、受けもせず横に払い捨て、刀を引くと身を翻えし、またも一散に走り出した。
策有って逃げると
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