何の何の偽りでござる。こやつら二人父の不覚が、身の破滅となり知行召し上げ、屋敷を放逐されたはず、人の噂で聞き及び居ります。所詮は浪人の窮餘の索、拙者を討ち取ってそれを功に、帰参願おうの手段でござる!」


「そうとさそうとさ!」
「それに相違ねえ」
「何でもいいから料ッてしまえ!」
 角太郎はじめ五人の博徒は、主水兄妹に切りかかった。
 こうなっては問答は無益、切り払って危難をまぬがれ、陣十郎に近寄って、討ち取るより他に策はなかった。
「理非を弁えぬ汝ら博徒、その儀なれば用捨はならぬ、切って切って切りまくり、五ツ屍を積んで見せる……妹よ、澄江よ、背を合わせて……」
「あい」と云うと妹澄江も、血相変えて一所懸命、懐刀逆手に真向に構え、背中を主水の背中に附けた。
「くたばれ、野郎!」とその瞬間、主水目掛けて躍りかかったは、剣法は知らぬが喧嘩には巧みの、切り合いには手練の角太郎であった。
 音! 鏘然、つづいて悲鳴!
 捲き落とされた脇差が、土煙立つ街道に落ち、肩を割られた角太郎が、足を空ざまに宙に上げ、
「切られた――ッ、畜生! ……畜生! 畜生! 畜生!」
 倒れてノタウチ這い廻り、は
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