よかろうぞ、汝らの父親庄右衛門のために、堪忍ならぬ恥辱を受け、武士の面目討ち果し、立ち退いて来たこの拙者だ、何の見忘れてよかろうぞ。それにもかかわらずこの拙者を、敵呼ばわり片腹痛し、怨みといえば某《それがし》こそ、かえって汝らに持つ身なるわ! ……敵討とな、笑止千万! 逆怨みとは汝らのことよ! ……が、逆怨みしてこの拙者を、討ち取るとあらば討ち取られよう。とはいえ只では討ち取られない。いかにも尋常の勝負してくれよう。その上での命の遣り取り! あべこべに汝ら討って取られるなよ。……やあ高萩の兄弟衆、お聞き及び通りご覧の如く、こやつら二人逆怨みして、拙者を敵と云いがかり、理不尽にも討ち取ろうといたします。拙者は一人相手は二人、日頃の誼《よし》み兄弟分の情、何卒お助太刀下されい」
卑怯にも黒白を逆に云い做らし[#「云い做らし」は底本では「云ひ做らし」]、思慮の浅い博徒を唆《そそ》り[#「唆《そそ》り」は底本では「唆《そそ》そり」]、主水兄妹を討ち取らせようと、そう陣十郎は誠しやかに叫んだ。
「合点だ、やれ!」と応じたのは猪之松の乾兒《こぶん》の角太郎であった。
「水品先生を敵と狙う! とん
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