たばかりの朝日を浴びて、急ぎ足で歩いて来た。
 鴫澤主水《しぎさわもんど》と澄江《すみえ》とであった。
 昨日見かけた編笠の武士が、敵水品陣十郎か否か、それを窃《ひそか》に確かめようと、上尾宿の旅籠桔梗屋を立って、高萩村へ行こうとして、今来かかった途中なのである。
「お兄様あれは?」と澄江は云って不安そうに指を差した。
 博徒風の人間が切り合ってい、数人の者がそれを見ている、そういう光景が行手に在り、鏘然その時一太刀合い、日光に白刃が火のように輝き、直ぐに引かれて又相正眼、二人が数間飛びすさり、動かずなった姿が見られた。
「切り合いだな」と主水は云った。
「博徒同志の切り合いらしい」
「かかりあいなどになりましては、大事持つ身迷惑千万、避けて行くことにいたしましょう」
「それがよかろう」と主水は云った。
「ではその辺りから横へ逸れて……お待ち」と不意に足を止め、主水はじっと一所を見詰めた。
「立木に背《せな》をもたせかけ、切り合いを見ている武士がいる。昨日見かけた編笠の武士だ!」
「まあ」と澄江は声をはずませ、主水へ躰を寄り添わせたが、
「あのお侍さんでございますか。……おお、まさしく
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