戟を求め出したと、そう解釈してよさそうである。
 袴無しの着流しで、蝋塗りの細身の大小を差し、白扇を胸の辺りでパチツカせ、青簾に釣忍《つりしのぶ》、そんなものが軒にチラチラ見える町通りを歩いて行った。
 浅草観世音へ参詣し、賽銭を投げて奥山を廻り、東両国の盛場へ来たときには、日が少し傾《かたむ》いていた。

娘太夫を巡って


 両国橋を本所の方へ渡ると、江戸一番の盛場となり、ことに細小路一帯には、丹波から連れて来た狐爺《きつねおやじ》とか、河童《かっぱ》の見世物とか和蘭陀眼鏡《おらんだめがね》とかそんないかがわしい見世物小屋があって、勤番武士とか、お上りさんとか、そういう低級の観客の趣味に、巧みに迎合させていた。講釈場もあれば水芸、曲独楽《きょくごま》、そんなものの定席もできていた。
 曲独楽の定席の前まで来て、浪之助はちょっと足を止めた。
 しばらく思案をしたようであったが、木戸銭を払って中へ入った。
 こんなものへ入って曲独楽を見て、口を開けて見とれるという程、悪趣味の彼ではないのであったが、以前にここの娘太夫で、美貌と業《わざ》の巧いのとで、一時両国の人気を攫った、本名お組《
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