一歳の猪之松は、色白で大兵で、品の備わった立派な男で、博徒などとは見えなかった。高い太い鼻は凜々しかったが、小さい薄い唇は、子供のように初々しく、女などにはどうにも愛されそうであった。結城《ゆうき》の衣装に博多《はかた》の帯、鮫鞘《さめざや》の長脇差を差している。
後の五人は乾児であり、もう一人は浪人らしい武士であった。
馬大尽井上嘉門を、乾児達へ出迎えさせ、定宿明石屋へ送り届け、自分も行って挨拶をし、上尾へ出て来たついでとあって、乾児を連れて山城屋へ行き、この頃深間になったお山を揚げ、一夜遊んでの帰途であった。
六地蔵の前までやって来た時、木陰から林蔵が現われた。
5
「高萩の、ちょっと待ってくれ」
林蔵は正面から声をかけた。
「おお、これは赤尾のか、どうして今頃こんな所に?」
猪之松はちょっと驚いたように、足を止めてそう云った。
「何さ昨夜《ゆうべ》上尾へ行って、陽気に騒ごうと思ったところ、馬大尽が山城屋に来ていて、表を閉めての多々羅遊び、そこでこっちはすっかり悄気《しょげ》、つまらねえ所へ上ってしまい、面白くもねえところから、夜の引き明けに飛び出して、野面の景色を見て
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