中総出で、お迎えするんでございますが、何しろ今晩は馬大尽様が、そのお山さんを相方にして、しかも家を総仕舞いにして、誰もあげるなと有仰《おっしゃ》って……」
その時林蔵が声をかけた。
「それじゃア何かいお山の客は、木曽の馬大尽|井上嘉門《いのうえかもん》様か?」
「へい、さようでございます」
「それじゃアどうも仕方がねえ。そうそうそう云えば井上大尽が、今日この土地へ来られたってこと人の噂で聞いたっけ。此方俺《こちとら》も随分ご厄介になった方だ。……いやそれなら結構だ。そういうお方に可愛がられたとあっては、かえってお山に箔がつく、いやそれなら結構だ。……杉さん、藤作、じゃア行こう。……笹屋へでも行って飲み明かそうぜ」
三人は山城屋の門《かど》から離れ、五町ほど離れたこれも遊女屋の、笹屋というのへ乗り込んだ。
三人|各自《めいめい》寝についた。
夜中に林蔵は眼をさまし、用を達《た》すため部屋を出た。
内緒の前まで来た時である、
「林蔵親分はお気の毒な……」という、笹屋の主人の声が聞こえた。
(はてな?)と林蔵は足を止めた。
「林蔵親分はお気の毒な、お山さんの心の変わったのも知らず、
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