んで、杉さんに張らせちゃアならねえって」
 こう云って乾児達は相手にしなかった。
 これだけが浪之助には心外であった。
 とうと浪之助は我慢しきれず、一度でいいから賭場を見せてくれと、今日林蔵へ押して頼んだ。
「仕方がないねえ」と云いながらも、断わりきれず浪之助を連れて、林蔵は自分の賭場の一つ、広谷ヶ原へ出かけて行き、今はそれの帰りなのであった。
 三人は野良路を歩いて行く。
「親分これからどうなさいます?」
 乾児の藤作が声をかけた。
「杉さんにもつきあって[#「つきあって」に傍点]貰って、山城屋へ行って遊ぶとしようぜ」
「そう来なくちゃアならねえところさ。第一お山《やま》さんが大喜びだ」


 上尾宿一番の遊女屋山城屋、その前までやって来たが、見れば表が閉ざされていた。
 それでいて屋内からは賑かな、男女の声が聞こえてきた。
「親分どうも変ですねえ、表を閉じて遊ぶなんて、まず余っ程の大尽でなけりゃア、当今やるこっちゃありませんぜ」
 藤作はいくらかムカッ腹で云った。
「そうさ、こいつ[#「こいつ」に傍点]アちょっと変だ」
 林蔵もいくらか怪訝そうに云った。
「戸をどやしつけてみま
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