之松親分かと、並び称され居ります大親分で」
「それにしても木曽の馬大尽が、武州の博徒などと親しいとは?」
「それには訳がございます。……ご承知のこととは存じますが、木曽福島には毎年|半夏至《はんげし》の候、大馬市がございまして、諸国から馬持や博労が集まり、いくらとも知れないたくさんの馬の、売買や交換が行なわれ、大賑《おおにぎわ》いをいたします」
「木曽の馬市なら存じて居る。日本的に有名じゃ」
「荒っぽい大金の遣り取りが行なわれますのでございます」
「もちろんそれはそうだろうな」
「そこを目掛けて諸国の親分衆が、身内や乾児衆を大勢引連れ、千両箱や駒箱を担ぎ、景気よく乗り込んで行きまして、各自《めいめい》の持場に小屋掛けをしまして、大きな盆を敷きますので」
「つまり何だな博奕をやるのだな」
「へい左様でございます。その豪勢さ景気よさ、大相もないそうでございます」


「賭場をひらくとは怪しからんではないか」
「などと仰せられても福島の賭場、甲州|身延山御会式賭場《みのぶさんおんえしきとば》と一緒に、日本における二大賭場と申し天下御免なのでございますよ」
「ふうんそうか、豪勢なものだな」

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