ぎすてた衣装を畳んでいた澄江は、そう云い云い立って来た。
「あれをご覧、あそこへ行く武士を。……あ、いけない、曲がってしまった」
さよう、その時その一団は、行手にあった四辻を、左の方へ曲がってしまった。
「お兄様、何なのでございますか?」
「わしの眼違いかも知れないが、陣十郎に似た浪人らしい武士が……」
「まあ」と澄江は眼を据えた。
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「通って行ったとおっしゃいますので?」
「博徒と博労らしい一団が、駕籠を護って通って行ったが、その中にその武士がまじっていたのだ」
「ではちょっとわたしが行って、陣十郎かそうでないかを……」
「待て待て」と立ち上る澄江を制し、主水は思慮深く考え考え、
「陣十郎も敵待つ身、油断があろうとは思われぬ。あべこべに其方《そち》の姿を見付け、悪剣を揮わぬとも限らない。……もし彼がまこと陣十郎としても、見受けたところ博徒の輩の、賭場防ぎの用心棒として、住み付いている身の上らしく、さすれば今日や明日の中に、この地を去るものとも思われない。……馬大尽とは何者か、先刻《さっき》の一団は何者か、その辺りのことから十分に探って、その上で事に取りかかった方が、安全のように
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