はいささかの縁辺《しるべ》、最近我が家の寄宿者《かかりうど》となり、我等養い居りましたるところ、わずかのことよりたった今し方、われらが父庄右衛門を殺し、ご覧のとおり妹を誘拐《かどわか》し、遁れようといたし居りまする。承わりますればご貴殿には、ご高名の秋山先生との御事、助太刀お願いいたしまする」
「心得てござる」と要介は云った。
「そうなくとも水品陣十郎に対し、拙者従来確執ござる。討って取らねばならぬ奴、まして貴殿ご兄妹の敵《かたき》とありましては、いよいよもって見遁し難い。……助太刀たしかに承知いたした。……貴殿そなたより切ってかかられよ。拙者組み止めお引き渡す。……浪之助殿、貴殿も共々」
「承知しました」と浪之助も云って、本来は小胆である彼ではあったが、傍らには要介が居ることではあり、そうでなくてもこういう場に臨めば、そこは武士で義侠の血も湧き、勇気も勃然と起こるものであり、やにわに刀を引き抜いた。
 腹背敵を受けたばかりか、その中の一人は剣聖ともいうべき、秋山要介正勝であった。剣鬼のような水品陣十郎も、進退|谷《きわ》まったと知ったらしい、突立ったまま居縮んだが、抱えていた澄江を地
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