を出て行った、古巣右内という若侍が、蒼白《まっさお》な顔をして帰って来た。
「どうしたどうした」
「顔色が悪いぞ」
「今までどこへ行っていたのだ」
 と若侍たちは口々に訊いた。
「面目次第もないことを仕出来《しでか》しまして」
 右内は震える口で云った。
「新刀の試し切りいたそうと存じて、川上氏と金田一氏共々、大曾根の乞食小屋まで参りましたところ、一つの小屋の菰垂れの裾より、白刃ひらめきいでまして、あの豪勇の金田一氏が、片足を斬り落とされまして厶《ござ》りまする」
「なに乞食に金田一氏が……」
 若侍たちは森然としてしまった。
 それというのは金田一新助は、尾張藩の中でもかなりの使い手として、尊敬されている武芸者だからであった。
「そこで拙者と川上氏とで、金田一氏お屋敷まで、金田一氏をお送りいたし、川上氏はそのまま止まり、拙者一人だけ帰って参ったので厶るが……」と古巣右内は面目なさそうに云った。
 一同は何とも云わなかった。
 同僚が斬られたというのであるから、本来なれば出かけて行って、復讐すべきが当然なのであるが、相手が武士《ぶし》であろうことか、乞食小屋の乞食だというのであるから、
前へ 次へ
全343ページ中328ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング