傍点]走り、ひた[#「ひた」に傍点]走った。

 偽善の巣窟であるところの、井上嘉門の領地内が、攪乱されたのはこの夜であった。
 乳飲児を抱いた若い女が、放蕩の良人《おっと》を探し出そうとして、深夜に領地内を彷徨《さまよ》っている。
 横を魔のように通る者があった。
「わ――ッ」と女は悲鳴をあげた。
 もう女は斃れていた。
 飼犬がどこかへ行ってしまった。それを目付けようと老いた農夫が、杖をつきながら通っていた。
「クロよ、クロよ、おいで、おいで」
 こう云いながら通っていた。
 その横をスルスルと通る者があった。
 一閃!
 刀光!
「わ、わ、わ、わ、わ――ッ」
 老農夫は斃れ動かなくなった。
 向こうでも切られこっちでも切られた。
 人々は戸外へ飛び出した。

賭場荒れ


 嘉門は決して人格者ではなく、又勝れた施政家でもなく、ただ家長という位置にあり、伝統的にその位置を利用し、圧制し専政し、威圧ばかりしていた人物であった。
 で、隷属していた人々は、永い間心に不平と不満を、ひそかに蔵していたのであった。そういう人々が侵入者によって、この境地が攪乱された、その機に乗じ爆発した。向
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