やった。……しばらくじっと[#「じっと」に傍点]しているがいい」
 ――で、立ったままじっと[#「じっと」に傍点]していた。
 間もなく麓の方へ走り下る、人の足音が聞こえてきた。
「ははあもう一人も逃げて行ったな」
「先生何です、逃げて行ったとは?」
「一人が一人を殺そうとしていたのだ。……それをわしが挫いてやったのだ。……殺そうとした奴が先に逃げ、殺されかけていた人間が、つづいて今逃げて行ったのさ」
「こんな暗中でそんなことが、先生におわかりになりますので?」
「活眼活耳さえ持って居れば、暗中であろうと、睡眠中であろうと、そういうことはわかるものだ」

 主水は夢中で走っていた。
 恐怖と不安と一種の怒りとで、彼の心はうわずって[#「うわずって」に傍点]いた。
 彼にもう一段沈着があって、自分の危難を救ってくれたところの、恐ろしい掛声の主を尋ね、逢うことが出来たら自分と縁ある、侠剣の主人《あるじ》秋山要介と邂逅することが出来たのに!


 が、しかし主水にとっては、そんな余裕はなかったのであった。
(陣十郎め、心が変わった。たしかに悪人に還元した。俺を殺そうとしたらしい。でなかった
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