て、中の賽コロの目がわかる。
剣道の名人には自己に迫る殺気、そういうものなど当然わかり、あえて自己一身に迫るでなくとも、付近で行なわれる殺戮、殺傷、そういうものも感じられる。
それを要介は感じたのであった。
「切る奴を挫き、切られる奴を救おう」
こう要介は瞬間に思った。
思ったと同時に反射運動的に、
「カ――ッ!」と声をかけたのであった。
と、十数間のかなたから、木を潜って逃げて行く、葉擦れの音が聞こえてきた。
(逃げたな)と要介は直ぐに思った。
「セ、先生エ――ッ、ド、どうなされましたア――ッ」
主水が掛声に腰を挫かれ、地へベタベタと坐ったと同じく、これも掛声に腰を挫かれ、要介の背後の地へ坐った、杉浪之助が悲鳴をあげた。
「杉氏か、何という態《ざま》だ!」
「ナ、何という、ザ、態だと、セ、先生には、オ、仰せられても……」
「アッハハハハ、立ちな立ちな」
「恐ろしい目に逢いました」
云い云い浪之助は立ち上った。
「一体どうしたのでございます?」
「ナ――ニ、邪気を払ったまでさ」
「ははあ邪気を? ……が、邪気とは?」
「まあよろしい、いずれ話そう……ともかくも邪気は払って
前へ
次へ
全343ページ中300ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング