人、ちっとも不思議なく出来るってわけさ。……だから底無しの川の中には、幾百人とない男や女が、沈んでいるというわけだ。……そこを見な、その岩の裾を! 白骨が積んであるじゃアねえか。首を釣った奴や舌を噛んで死んだそういう奴らの骨の束だ」
見ればなるほど向こうに見えている、大岩の裾に月光に照らされ、ほの白い物の堆積があった。
「お爺さん」と澄江は震えながら云った。
「何を食べて生きているのです?」
「馬の肉だ、死んだ馬の。……時々そいつを投げてくれるのだ。谷の下口から上の番人が」
「死んだ馬の肉を? ……それが食物?」
「米もなけりゃア麦もねえ。野菜もなけりゃア香の物もねえ。……水といえばドロンと濁った、泥のようなその川の水だ。……だから長く生きられねえ。一月か二月で死んでしまう。……もっとも中にゃアそいつに慣れて、三年五年と生きてる奴がある。……俺なんかはその一人だよ。……」
「皆様どこにいるのです? どこに住んでいるのです?」
「岩窟《いわむろ》の中だ岩窟のな。……向こうにある、行ってみよう」
その老人が先に立ち、澄江たちは先へ進んだ。
人間の骨や馬の骨や――それらしいものが木の根
前へ
次へ
全343ページ中291ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング