そいで用意! 西野郷へ行くのだ、西野郷へ行くのだ!」
 急き立てるようにこう云った。
 要介は源女を取り返して以来、そうして源女と福島へ来て以来、源女の口からこういう事を聞いた、
「妾《わたくし》だんだん思い出しました。大森林、大渓谷、大きな屋敷、無数の馬、酒顛童子のような老人のいた所、そこはどうやら福島の、奥地のように思われます」と。
 それに福島へ来て以来、林蔵の[#「林蔵の」は底本では「林臓の」]乾児《こぶん》をして逸見《へんみ》多四郎の起居を、絶えず監視させていたが、それから今しがた通知があった。逸見多四郎が供二人を連れて、西野郷さして発足したと。
 そこでこんなように急き立てたのであった。
 三人は旅籠を出た。
(西野郷には馬大尽事、井上嘉門という大金持が、千頭ほどの馬を持って、蟠踞《ばんきょ》[#ルビの「ばんきょ」は底本では「はんきょ」]しているということだ。それが源女のいう所の、酒顛童子のような老人かも知れない)
 要介はそんなことを思った。
 さて三人は歩いて行く。
 西野郷は今日の三岳村と、開田村とに跨がっており、木曽川へ流れ込む黒川の流域、貝坪、古屋敷、馬橋、ヒゲ沢
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