で、時々駕籠を止めて、客をも駕籠舁《かごかき》をも休ませた。
 峠の中腹へ来た時である、
「駕籠屋ちょっと駕籠をとめろ」
 突然陣十郎はそう云った。
「おい主水、景色を見ようぜ」
「よかろう」と主水も駕籠から下りた。
「歩けるのか、陣十郎」
「大丈夫だ。ボツボツ歩ける」
 陣十郎は先に立って、森の方へ歩いて行った。


 明応《めいおう》年間に木曽義元、小笠原氏と戦って、戦い勝利を得たるをもって、華表《とりい》を建てて鳥居峠と呼ぶ。
 その鳥居の立っている森。――森の中は薄暗く、ところどころに日漏れがして、草に斑紋《まだら》を作ってはいたが、夕暮のように薄暗かった。
 そこを二人は歩いて行った。
 紅葉した楓《かえで》が漆《うるし》の木と共に、杉の木の間に火のように燃え、眩惑的に美しかったが、その前までやって来た時、
「エ――イ――ッ」と裂帛の声がかかり、木漏れ陽を割って白刃一閃!
「あッ」
 主水だ!
 叫声を上げ、あやうく飛び退き抜き合わせた!
 悪人の本性に返ったらしい! 見よ、陣十郎は負傷の身ながら、刀を大上段に振り冠り、繃帯の足を前後に踏み開き、大眼カッと見開いて、上瞼へ
前へ 次へ
全343ページ中246ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング