。
気絶しているのだ、暖味がある。
(よ――し、しからばこの間に!)
振り冠った刀を取り直し、胸へ引きつけ突こうとしたが、心の奥で止めるものがあった。
(あなたが高萩の森の中で、気絶しているのを陣十郎の情婦、お妻が助けたではありませんか。……正体もない人間を、敵《かたき》であろうと討つは卑怯、まず蘇生させてその上で)と。
(そうだ)と主水は草に坐り、印籠から薬を取り出した。
恩讐同居
1
木曽福島の納めの馬市。――
これは勿論現代にはない。
現代の木曽の馬市は、九月行なわれる中見《なかみ》の市と、半夏至を中にして行なわれる、おけつげ[#「おけつげ」に傍点]という二つしかない。
納めの馬市の行なわれたのは、天保末年の頃までであり、それも前二回の馬市に比べて、かなり劣ったものであった。もうこの頃は山国の木曽は、はなはだ寒くて冬めいてさえ居り、人の出もあまりなかったからである。
とは云え天下の福島の馬市! そうそう貧弱なものではなく、馬も五百頭それくらいは集まり、縁日小屋も掛けられれば、香具師《やし》の群も集まって来、そうして諸国の貸元衆が、乾児をつれて出張っても来、小屋がけ
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