知れず叫んだ。
駕籠がユラユラと宙に上り、街道の方へ舁がれて走り、その後から赧顔長髪の、酒顛童子[#「酒顛童子」は底本では「酒天童子」]さながらの人物が、ニタニタ笑いながら従《つ》いて走った。
猪之松の屋敷で澄江の躰を、自分の物にしようとして、陣十郎に邪魔をされて、望みを遂げることに失敗した、馬大尽の井上嘉門であった。
「駕籠待て――ッ、遣らぬ! 待て待て待て――ッ!」
陣十郎は追っかけたが、
「や、こいつ陣十郎! 又現われたか、今度こそ仕止めろ!」と、猪之松の乾児達一斉に、陣十郎を引っ包んだ。
一方、お妻はその隙を狙い、ひた走りひた走ったが、息切れがして地に仆れた。
と、そこに刀を下げて、寄せ来る群集に当惑し、左右に避けていた武士がいた。
「お侍さまと見申して、お助けお願いいたします!」
云い云いお妻は武士の袖に縋った。
「誰じゃ? よし、誰でもよし! 見込まれて助けを乞われた以上、誰であろうと助けつかわす! 参れ!」と云ったがこの武士こそ、秋山要介と太刀を交わし、命の遣り取りをしようとした瞬間、群集の崩れに中をへだてられ、相手の姿を見失ったところの、逸見多四郎その人であ
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