陣十郎だ!」
閂峰吉が眼ざとく[#「ざとく」に傍点]目付け、ギョッとしたように声をあげた。
「おおそうだ陣十郎だ!」
こう猪之松も叫んだが、いつぞやの晩自分の屋敷で、養ってやった恩を忘れ、乾児を切ったばかりでなく、井上嘉門に捧げた女――澄江とか云った武家の娘を、奪い去ったことを思い出した。
「畜生、恩知らず、たたんでしまえ!」
「やれ!」
ダ、ダ、ダ、ダ! ――
乾児達だ!
一斉にひっこ[#「ひっこ」に傍点]抜いて切ってかかった。
「…………」
無言で横なぐり!
陣十郎であった!
ブ――ッと血吹雪《ちふぶき》!
闇ながら立った。
匂いで知れる! 生臭さ!
「切ったぞ畜生!」
「用心しろ!」
開いて散じたが又合した。
見境いのない陣十郎、躍り上ってズ――ンと真っ向!
「キャ――ッ」
仆れて、ノタウチ廻る。また乾児が一人やられた。
見すてて一散宿の方へ!
「汝《おのれ》お妻ア――ッ! 逃がしてなろうか!」
「追え!」と猪之松は地団太を踏んだ。
「仕止めろ、汝ら、仕止めろ仕止めろ!」
一同ド――ッと追っかけた。
この頃|宿《しゅく》は狂乱していた。
馬!
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