ている彼女であったので、まずまずと心をおちつかせ、燃えるように上気《のぼ》って痛む頭を、夜の風にでも吹かせてやろうと、そこは女|邯鄲師《かんたんし》で、宿をこっそり抜け出すことなど、雑作なく問題なく出来るので、宿をこっそり抜け出して、今こうやって歩いているのであった。
さて冷え冷えとした高原の、秋の夜の風に吹かれながら、お妻は歩いているのであるが、問題が問題であるだけに、心は穏かにはならなかった。
(宿へ放火《ひつけ》でもしてやろうか!)
(人殺《ひとごろし》でもしてやろうか!)
そんなことさえ思うのであった。
街道から反れて草の露を散らし、お妻は野の方へ歩いて行く。
と、街道を背後《うしろ》の方から、木曽の納めの馬市へ出る、馬の群が博労に宰領されて、陸続と無数にやって来た。徹夜をして先へ進むのであった。それらのともして[#「ともして」に傍点]行く提燈の火が、点々とあたかも星のように、道を明るめ動いていたが、珍らしい美しい眺めであった。
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※[#歌記号、1−3−28]秋が来たとて鹿さえ鳴くに、なぜに紅葉《もみじ》は色に出ぬ
※[#歌記号、1−3−28]余り
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