ても寒い――信州の秋の夜の寒いことは……そこで重ね着しようとして……」
もずもず[#「もずもず」に傍点]と口の中で云いながら、テレて、失望して、断念して、主水は又も夜具の中へ入った。
(もう不可《いけ》ない、諦めよう)
主水はすっかり断念した。
眼端の利くお妻が眠った様子をして、こう自分を監視している以上、こっそり抜け出して行くことなど、とうてい出来ないと思ったからであった。
(よしよし明日の朝早く起き、そぞろ歩きにかこつけて、鍵屋へ行って見ることにしよう)
こう考えをつけてしまうと、一時に眠りが襲って来た。
主水は間もなく深い眠りに落ちた。
あべこべにお妻は眼をさましてしまい、腹這いになって考え込んだ。
好きで寝る間も枕元に置く莨《たばこ》、その煙管《きせる》を口にくわえ、ほの明るい行燈《あんどん》の光の中へ、漂って行く煙の行方を、上眼を使って見送りながら、お妻は考えに沈み込んだ。
これ迄は観念をしたかのように、決して自分を出し抜いて、逃げようなどとしたことのない主水が、今夜に限って何としたことか、二度まで抜けて出ようとした! これはどうしたことだろう?
どうにも合
前へ
次へ
全343ページ中208ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング