は憎さげに叫んだ。
乾児達は顔を見合わせた。
それに相違ないからであった。
過ぐる日上尾の街道で、赤尾の林蔵にいどまれ[#「いどまれ」に傍点]て、こっちの親分が引きもならず、真剣勝負をした際に、鴫澤主水とその妹の、澄江とかいう娘とが、親の敵を討つと宣《なの》って、水品陣十郎を襲ったが、討ちもせず、討たれもせず、主水という武士は行方不明、澄江という娘は博労達に、どこかへ担がれて行ってしまったと、その時こっちの親分に従《つ》いて、その修羅場にいた八五郎の口から、乾児達は詳しく話されて、そういう事情は知っていた。そればかりでなくその日以来、それ迄はほとんど毎日のように、ここの家へやって来て、乾分達へ剣術を教えたり、ゴロゴロしていた陣十郎が、姿をあまり見せなくなり、なお噂による時は、これ迄ずっと住んでいた家――この村の外れにあるお妻の実家へも、住まないばかりか余り立ち寄らず、ひたすら主水兄妹によって、探し出されることを恐れていると、そういうことも聞き知っていた。
4
そうして知って居りながら、知って居るとも知らないとも、事実おくび[#「おくび」に傍点]にも出さなかった。というのは事が
前へ
次へ
全343ページ中176ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング