後へ退《さが》りながら、息を呑み眼を見張り、素破《すわ》と云わば飛んで逃げようと、用心をして構えていた。


「アッハハハ」
 と陣十郎は、また気味の悪い笑声を立てた。
「切る奴は他にある、汝《おのれ》らは切らぬ、安心せい……鴫澤主水《しぎさわもんど》を探し出し、ただ一刀に返り討ち! 婦《おんな》、お妻を引きずり出し、主水ともども二太刀で為止《しと》める。……久しく血を吸わぬ越前直安、間もなく存分に血を吸わせてやるぞ!」
 燈火《ともしび》に反射してテラテラ光る、ネットリとした刀身を、じっと睨んで呟くように云ったが、
「汝ら解るか男の心が? 己を殺そうとして付け廻している、敵《かたき》を持っている男の心が」
 乾児達の方を振り返った。
「へい」と云ったのは閂峰吉で、
「さぞまア気味の悪いことで、いやアなものでございましょうなあ」
「討たれまいとして逃げ廻る。いやなものだぞ、いやなものだぞ」
「いやアなものでござりましょうなあ」
「が、一面快い」
「…………」
「討て、小童《こわっぱ》、探し出して討て! が俺は逃げて逃げて、決して汝には討たれてやらぬ。……こう決心して逃げ廻る心、快いぞ
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