助へ云うというより、自分自身へ云うように、譫言《うわごと》のように呟いた。
「陣十郎、水品陣十郎……何と云おう、悪鬼と云おうか……あの男のためにまア妾《わたし》は……これまでどんなに、まあどんなに……苦しめられ苦しめられたことか! ……騙《だま》され賺《す》かされ怯《おび》やかされ、旅でさんざん苦しめられた。……こんなにしたのはあの男だ。妾をこんなに、こんなにしたのは! ……病人に、白痴に、片輪者に! ……先生、お助け下さりませ! ……でも妾はどうあろうと、あれをどうともして思い出さなけりゃア……でもお許し下さりませ、思い出せないのでございます」
 不意に源女は節をつけて、歌うように云い出した。
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「ちちぶのこおり
おがわむら
へみさまにわの
ひのきのね
むかしはあったということじゃ
いまはかわってせんのうま
ごひゃくのうまのうまかいの
、、、、
、、、、
、、、、
まぐさのやまや
そこなしの
かわのなかじのいわむろの
[#ここで字下げ終わり]
 ……さあその後は何といったかしら? ……思い出せない思い出せない。……そうしてあそこはどこだったかしら? ……山に谷に
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