が庭へ入って来た。
「いい天気ね、弁三爺さん」
母屋の縁側に円座を敷き、その上に坐って憂鬱の顔をし、膏薬を練っていた弁三爺さんは、そう云われてお妻の顔を見た。
「よいお天気でございますとも……へい、さようで、よいお天気で」
――そこで又ムッツリと家伝の膏薬を、節立った手で練り出した。
お妻は眉をひそめて見せたが、
「日和が続いていい気持だのに、爺つぁんはいつも不機嫌そうね」
「へい、不機嫌でございますとも、倅が江戸へ出て行ったまま、帰って来ないのでございますからな」
「またそれをお云いなのかえ。ナーニそのうち帰って来るよ」とは云ったものの殺された倅、弁太郎が何で帰るものかと、心の中で思っているのであった。
(あの人を殺したのは陣十郎だし、殺すように進めたのは妾だったっけ)
こう思えばさすがに厭な気がした。
まだお妻がそんな邯鄲師《かんたんし》などにならず、この郷に平凡にくらしていた頃から、弁太郎はひどくお妻を恋し、つけつ[#「つけつ」に傍点]廻しつして口説いたものであった。その後お妻は故郷を出て、今のような身の上になってしまった。と、ヒョッコリ[#「ヒョッコリ」は底本では「ヒ
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