を出た。

 逸見多四郎家のここは道場。――
 竹刀《しない》ではない木刀であった。
 要介と多四郎とは構えていた。
 一本勝負!
 そう定められていた。
 二人ながら中段の構え!
 今、シ――ンと静かである。
 かかる試合に見物は無用と、通いの門弟も内門弟も、一切退けてのただ二人だけ! いや他に杉浪之助と、要介の訪問に応待に出た、先刻の若侍とが道場の隅に、つつましく控えて見守っていた。

10[#「10」は縦中横]
 見霞むばかりの大道場、高く造られある正面は、師範の控える席であり、それに向かって左の板壁には、竹刀《しない》、木刀、槍、薙刀《なぎなた》、面、胴、籠手の道具類が、棚に整然と置かれてあり、左の板壁には段位を分けた、漆塗りの名札がかけてあった。
 塵もとどめぬ板敷は、から[#「から」に傍点]拭きされて鏡のように光り、おりから羽目板の隙間から、横射しに射して来た日の光りが、そこへ琥珀色の棒縞を織り、その空間の光の圏内に、ポッと立っている幽かな塵埃《ほこり》は、薄い煙か紗のようであった。
 互いに中段に位取って動かぬ、要介と多四郎は広い道場の、中央に居るところから、道場の端に腰
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