後日の取沙汰も恐ろしい。討つものなら立派に討とう! 討たれるものなら立派に討たれよう!)
 二人ながら心身疲労していた。
 気|疲労《つかれ》! 気疲労! 恐ろしい気疲労!
 技が勝れているだけに、伎倆《うで》が伯仲であるだけに、その気疲労も甚だしいのであった。
 向かい合っていた二本の刀の、その切先がやがて徐々に、双方から寄って来た。
 見よ二人ながら踏み出している右足の爪先が蝮を作り、地を刻んで一寸二寸と、相手に向かって進むではないか。
 ぢ――ン[#「ぢ――ン」はママ]!
 音は立たなかった。
 が、ぢ――ン[#「ぢ――ン」はママ]と音立つように、互いの切先が触れ合った。
 しかしそのまま二本の刀身は、一度に水のように後へ引き、その間隔が六歩ほどとなった。
 そうしてそのまま静止した。
 静止したまま山形をなし、山形をなしたまま微動した。
 薄くポ――ッと刀と刀の間に、立ち昇っているのは塵埃《ほこり》であった。
 二人の刻んだ足のためにポ――ッと立った塵埃であった。
 間、
 長い間。
 天地寂寥。
 が、俄然二本の刀が、宙で烈しくもつれ合った。
 閃光! 太刀音! 鏘然! 鍔鳴
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