した。
「殺せ殺せさあ殺せ! 骨は親分が拾ってくれる! 殺せ殺せさあ殺せ!」
藤作は大の字に仆れたまま、多勢に一人力では敵《かな》わず、ただ声ばかりで威張っていた。
そいつを高萩の乾兒達は、戸外《おもて》へ引き出し抛り出した。
「ナニ藤作が猪之の賭場で、間違いを起こして袋叩きにされたと」
料理屋の奥で酒を飲んでいた、赤尾の林蔵はこれを聞くと、――乾兒の注進でこれを聞くと、長脇差をひっ[#「ひっ」に傍点]掴み、
「こうしちゃいられねえ、みんな来い!」
取巻いていた乾兒を連れ、自分の賭場の方へ走って行った。
4
高萩の猪之松も料理屋の座敷で、四五人の乾兒たちと酒を飲んでいたが、乾兒の注進でこの事件を知ると、顔の色を変えてしまった。
「云うことに事を欠いて、イカサマがあると云われちゃア、袋叩きにもしただろうさ。……が、相手が悪かった。日頃から怨みの重なっている、赤尾の林蔵の身内だからなア。……こいつアただではおさまるまい。……ともかくも旅籠《やど》へ引き上げろ」
そこで旅籠《はたご》へ帰って来た。
林蔵も一旦賭場へ行き、負傷をしている藤作へ、すぐに応急の手あて[#「あて」に傍点]を加え、板で吊らせて旅籠へ運び、自分も旅籠へ帰って来た。
「藤作のやり方が悪かったにしても、場銭をさらいに来やがったと、こう云われては腹に据えかねる……そうでなくてさえ[#「さえ」は底本では「さへ」]怨みの重なる、高萩一家の奴原《やつばら》だ、この際一気に片づけてしまえ!」
なぐり込みの準備をやり出した。
という知らせが猪之松方へ行った。
「もうこうなっては仕方がない、こっちからもなぐり[#「なぐり」に傍点]込みをかけてやれ」
竹槍、長脇差、鉄砲まで集め、高萩一家も準備をはじめた。
驚いたのは他の貸元連で、小金井の半助、江尻の和助、鰍沢《かじかざわ》の藤兵衛、三保ノ松の源蔵、その他の貸元ほとんど一同、一つ旅籠へ集まって、仲裁《なかなおり》の策を相談した。
その結果小金井の半助が、猪之松方へ出かけて行き、そうして鰍沢の藤兵衛が、林蔵の方へ出かけて行き、事を分けて話すことになった。
「赤尾の身内の藤作どんとやらが、酒に酔っての悪てんごう[#「てんごう」に傍点]、あんたの賭場にイカサマがあると、そう云われちゃア高萩のにしても、さぞ腹が立つではありましょうが、日和《ひより》も続
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