から(厭な野郎が舞い込みやアがった)
と、峰吉も八五郎も思ったが、まさか帰れとも云いかねて(障るな触れるな、そっと[#「そっと」に傍点]して置け)
こう考えて眼まぜ[#「まぜ」に傍点]で知らせ合い、声もかけず勝負をつづけて行った。
と、不意に藤作は怒鳴った。
「勝負待った、イカサマあ不可《いけ》ねえ!」
同時に飛び出し盆蓙を掴むと、パーッとばかりにひっぺがした。
「野郎!」と飛び上ったは八五郎。
「賭場荒らしだ――ッ」と客人たちは、総立ちになって右往左往した。
3
「イカサマとは何だ、この野郎!」
やにわに八五郎は飛びかかった。
その横ッ面をポカリと一つ、藤作は見事にくらわせたが、
「イカサマだ――ッ、イカサマだ――ッ! ……高萩の猪之の賭場の壺振、八五郎はイカサマをして居りやす! ……お客人衆、イカサマだ――ッ」と叫んだ。
「藤作!」と腹に据えかねたように、怒声をあげると、閂峰吉、長脇差をひっ掴み、立ち上るとツカツカと前へ出た。
「見りゃア手前は赤尾の藤作、まんざら知らねえ顔でもねえ。事を決して荒立てたくはねえが、高萩一家が盆割の場所で、イカサマと云われちゃア、どうにも我慢が出来にくい。さあ云え云えどこがイカサマだ!」
「何を云やがる、イカサマだ――ッ、賽もイカサマなら盆もイカサマ、高萩一家は、イカサマだ――ッ」
こう藤作は叫んだものの、実はイカサマを発見して、それであばれ出したというのではなく、ただ何かしらあばれてやろう、あばれて八五郎をとっちめてやろうと、そう思って仕掛けた賭場荒らしだったので、そう峰吉に突っ込まれては、イカサマの証拠をあげることなど、勿論することは出来ないのであった。
イカサマだ――、イカサマだ――、とただ怒鳴った。
「野郎」と峰吉はいよいよ怒り、
「さては野郎賭場を荒らし、賭場銭さらいに来やがったな!」
ここで嘲笑い毒吐いた。
「赤尾の林蔵は若いに似合わず、万事に行届きいい親分だと、仲間内で評判がいいと聞いたが、乾兒へロクロク小使さえくれず、懐中《ふところ》さみしくしていると見える。乾兒が場銭をさらいに来たわ! ……汝《うぬ》らに賭場を荒らされるような、高萩一家と思っているか! ……さあみんなこの野郎を、袋叩きにして追い返せ!」
声に応じて八五郎はじめ、高萩身内の乾兒五六人、ムラムラと寄り藤作を囲み、撲り蹴り引きずり廻
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