の通り、千、五百の大馬飼は、貴殿以外にはござらぬからな」
「御意で。……が、そうとありますれば、いささかお気の毒に存ぜられまする」
「何故でござるな。それは何故で?」
「なぜと申してそうではござらぬか、そのような莫大な黄金を、私保存いたし居りますれば、決して決して何人にも、お渡しすることではござりませぬ」
「それはもうもう云うまでもない儀、が、拙者といたしましては、そこに少しく別の考えが……」

10[#「10」は縦中横]
「別の考え? 何でござるかな?」
「貴殿がたしかにその黄金を、現実に保存され居るなら、何で拙者その貴殿より、その黄金取りましょうや。……が、もしも貴殿においても、黄金の在り場所的確に知らず、ひそかに探し居らるるようなら……」
「なるほど、これはごもっとも。そうあるならば貴郎《あなた》様と私、力を集めて探し出そうと覚し召し、参られたので?」
「さよう、ざっとその通りでござる」
「これは事件が面白くなった。……が、さて何と申し上げてよいやら」
 嘉門はここで沈黙してしまった。
 妙に息詰まる真剣の気が、二人の間に漂っている。
 やがて嘉門がポツリポツリと云った。
「歌にありまするその馬飼は、たしかに私にござります。そうして歌にありますように、私の屋敷に領地内に、ある時代にはその黄金、ありましたそうでござります。……その黄金ありましたればこそ、馬鹿らしいほどの繁栄を来たし、今このように広い領地を、持つことが出来て居りますので。そうでなくては馬飼風情、いかにあくせく[#「あくせく」に傍点]働きましたところで、とてもとても今日のような。……で私はその黄金を、巧みに利用し財《たから》を積んだところの、祖先に対して有難やと、お礼申して居りまする次第で」
「とそう云われるお言葉から推せば、今日においてはその黄金、すでにお手にはないご様子……」
「さあそれとてそうとも否とも、ちと私としては申しかねますので……」
「これは奇怪、はなはだ曖昧!」
「へいへい曖昧でござりますとも」
「方角を変えてお尋ねいたす。例の歌の末段に※[#歌記号、1−3−28]|秣《まぐさ》の山や底無しの、川の中地の岩窟《いわむろ》にと、こういう文句がござりまするが、そこに大方その黄金、埋没されて居りたるものと、この拙者には思われまするが、そのような境地が領内に……?」
「へいへいたしかにござり
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