に揺れて、山の手の方へ行くのが見えた。
三人は後を追った。
が、その一行に近寄って見て、これは迂闊に力で襲っても、勝目すくなく危険だと思った。
というのは一頭の裸馬に、男か女かわからなかったが、一人の人間をくくりつけ、それへ油単《ゆたん》を上から冠せた、そういう人と馬とを囲繞《いじょう》し、十数人の荒くれ男が、鉄砲、弓、槍などを担いで、護衛して歩いているからであった。
(飛道具には適わない)
三人ながらそう思った。
で、要介は浪之助に、
「どこまでもこっそり後を尾けて、その行方を確かめよう。そうしていい機会が到来したら、切り散らして犠牲者を奪い取ってやろう」
こう耳元で囁いた。
「それがよろしゅうございます」
浪之助も[#「浪之助も」は底本では「浪人之助も」]そう云った。
澄江を生地獄へ送り出した後の、嘉門の豪奢な主家の部屋には、逸見多四郎が端座していた。
想う女を生地獄へ送った。――そんな気振など微塵もなく、嘉門は機嫌よく愛想笑いをして、多四郎との閑談にふけっていた。
処士とはいっても所の領主、松平|大和守《やまとのかみ》には客分として、丁寧にあつかわれる立派な身分、ことには自分が贔屓にしている、高萩の猪之松の剣道の師匠――そういう逸見多四郎であった。傲岸な嘉門も慇懃丁寧に、応待しなければならなかった。
牧馬の話から名所旧蹟の話、諸国の風俗人情の話、そんな話が一渡り済んで、ちょっと話が途絶えた時、何気ない口調で多四郎は云った。
「秩父の郡小川村、逸見様庭の桧の根、むかしはあったということじゃ……云々と云う昔からの歌が秩父地方でうたわれ居ります。この歌の意味は伝説によれば、源|頼義《よりよし》[#「頼義《よりよし》」は底本では「義頼《よしより》」]、その子|義家《よしいえ》、奥州攻めの帰るさにおいて、秩父地方に埋めました黄金、それにまつわる歌とのこと、しかるにこの歌の末段にあたり※[#歌記号、1−3−28]今は変わって千の馬、五百の馬の馬飼の――云々という、そういう文句がござります由、思うにこれはその黄金が、その素晴らしい馬飼のお手に、保存され居るということであろうと……」
「しばらく」と不意に嘉門は云った。
それから皮肉の笑い方をしたが、
「ははあそれで逸見様には、その黄金を手に入れるべく、当屋敷をお訪ね下されたので?」
「率直に申せばそ
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