2[#「12」は縦中横]
「名は? 源女! お組の源女! ……と申しはいたしませぬか?」
「よくご存知、その通りじゃ」
「やっぱりそうか! そうでござったか! ……有難し、まさしく天の賜物! ……その女こそこの要介仔細ござって久しい前より、保護を加え養い居る者、過日上尾の街道附近で、見失い失望いたし居りましたが、貴殿お助け下されたか。……源女拙者にお渡し下され」
「ならぬ!」と多四郎ニベもなく云った。
「源女決して渡すことならぬ!」
「理由は? 理由は? 逸見氏?」
「理由は歌じゃ、源女の歌う歌じゃ!」
「…………」
「今は変わって千の馬、五百の馬の馬飼の……後にも数句ござったが、この歌を歌う源女という女子、拙者必要、必要でござる!」
「なるほど」と要介は頷いて云った。
「貴殿のお家に、逸見家に、因縁最も深き歌、その歌をうたう源女という女、なるほど必要ござろうのう……伝説にある埋もれたる黄金、それを掘り出すには屈竟の手蔓……」
「では貴殿におかれても?」
「御意、さればこそ源女をこれ迄……」
「と知ってはいよいよ源女という女子《おなご》、お渡しいたすことなりませぬ」
「さりながら本来拙者が保護して……」
「過ぐる日まではな。がその後、見失いましたは縁無き證拠。……助けて拙者手に入れたからは、今は拙者のものでござる」
「源女を手蔓に埋もれし黄金を、では貴殿にはお探しなさるお気か?」
「その通り、云うまでもござらぬ」
「では拙者の競争相手!」
「止むを得ませぬ、因縁でござろう」
「二重に怨みを結びましたな!」
「ナニ怨みを? 二重に怨みを?」
「今は怨みと申してよかろう! ……一つは門弟に関する怨み、その二は源女に関する怨み!」
「それとても止むを得ぬ儀」
「用心なされ逸見氏、拙者必ず源女を手に入れ、埋もれし黄金も手に入れましょう」
「出来ましたなら、おやりなされい!」
「用心なされ逸見氏、源女を手に入れ埋もれし黄金を、探し出だそうと企て居る者、二人以外にもござる程に!」
「二人以外に? 誰じゃそ奴?」
「貴殿の門弟、水品陣十郎!」
「おお陣十郎! おお彼奴《きゃつ》か! ……弟子ながらも稀代の使い手、しかも悪剣『逆ノ車』の、創始者にして恐ろしい奴。……彼奴の悪剣を破る業、見出だそうとこの日頃苦心していたが、彼奴が彼奴が源女と黄金を……」
「逸見氏、お暇申す」
「勝負は
前へ 次へ
全172ページ中74ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング