へお詣りに参りましたところ、あなた様が気絶をしておいでなさいましたので、ご介抱申し上げたのでございます。でも正気づかれて、ほんとうに嬉しゅうございます」
と云った。細々としていて、優しい、それでいて寂《さび》しみの籠もっている声であった。
頼母は娘の顔へ眼をやり、
「忝《かたじ》けのうございました。おかげをもちまして、命びろいいたしました」と云ったが、(何んだ俺はまだ寝ているではないか)と気づき、起き上がろうとした。しかし、倒れた時、体をひどく打ったらしく、節々が痛んで、なかなか起き上がれなかった。
「いえいえ、そのままでおいでなさいませ。お寝《よ》ったままで。どうせそのお体では、すぐにご出立は出来ますまい。むさくるしい所ではございますが、妾《わたし》の家で、二、三日ご逗留し、ご養生なさいませ。いえいえご遠慮には及びませぬ。よく妾の家へは、旅のお武家様がお立ち寄りでございます。父が大変喜びますので。でも、家は一里ほど離れておりますので、お徒歩《ひろ》いではお困りでございましょう。乳母《ばあや》がおりますゆえ、町へやり、駕籠をひろわせて参りましょう。……乳母!」と、娘は立ち上がりなが
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