、武者振りつこうとしているのであった。
純情の二人の女
左門は、右手に、抜いた関ノ孫六の刀を握り、それを、お浦へ差し付け、左手では、紙帳の裾をかかげ遁がれ出ようとする栞の帯を掴んでいた。
「お浦、事情を聞けばまことに気の毒、さぞ左門が憎いであろうぞ! が、今は甲斐ない繰り言! 過ぎ去った事じゃ! ……」
と云ったが、抜き身を地へ置くと、その手を頤の下へ支《か》い、眉根へ寄せたがために、藪睨みのようになって見える瞳《め》で、つくづくとお浦の顔を見詰め、
「以前《これまで》の拙者なりゃ、その方より紙帳へ近附いたからには憂き目を見たは自業自得と、突っ放すなれど、現在《いま》の拙者の心境《こころ》ではそれは出来ぬ。気の毒に思うぞ! 詫び申すぞ! ……さりながら一切は過ぎ去ったこと、繰り返しても甲斐はない! ……今後は贖罪《とくざい》あるばかりじゃ! ……お浦、そちのその重傷《おもで》では、生命取り止むること覚束《おぼつか》ないかもしれぬ。そこで云う、今生《こんじょう》唯一の希望《のぞみ》を申せ! ……左門、身に代えて叶えてとらせる!」
「希望※[#感嘆符疑問符、1−8−78] ……唯一の、今生の希望※[#感嘆符疑問符、1−8−78]」
と、お浦は、すでに天眼になりはじめた瞳、小鼻がにわかに落ちて、細く険しくなった鼻、刳《えぐ》られたように痩せ落ちた顳※[#「需+頁」、第3水準1−94−6]《こめかみ》や頬、そういう輪廓を、黒い焔のような乱髪で縁取《ふちど》り、さながら、般若《はんにゃ》の能面《おもて》を、黒ビロードで額縁したような顔を、ヒタと左門へ差し向けたが、
「おおそれなら、頼母様のお命を! オ、お助けくださりませ! ……五郎蔵の乾児大勢に、ああ取り囲まれましては、所詮助からぬあのお方のお命! ……お助けくださらば海山のご恩! ……あなた様への怨みも消えまする! ……左門様アーッ」
「左門様アーッ」
と、するとこの時、もがいて、ようやく、左門の手から遁がれた栞が叫んだ。
「妾からもお願いいたしまする! ……頼母様のお命お助けくださりませ! ……、聞けば頼母様、五郎蔵一味大勢の者に取り囲まれ、ご危難とか! ……おおおお、あの物音が、頼母様討とうの物音とか! ……掛け代えのない大切の頼母様、オ、お助けくださりませーッ」
乱れた衣裳、髻《もとどり》千切れ
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